歯の寿命を左右する“治療選択”はプロの診断が必要
くきデンタルオフィスの審美歯科医師の九鬼ゆりが詳しく解説します。
虫歯治療では
「インレーでいけますか?」
「クラウンじゃないとダメですか?」
と患者様からご質問をいただくことが多くあります。
しかし実は、インレーかクラウンかは、患者様が選ぶものではなく、歯科医師が診断して決定するべき治療です。
なぜなら、この選択は歯の寿命に直結する重要な診断 だからです。
この記事では、インレーとクラウンの違い、そして歯科医師が判断するべき理由をわかりやすく解説します。
1.インレーとクラウンは「削る量」も「目的」も全く違う
インレー(部分的な詰め物)
・歯の一部を削り、ピース状の補綴物を“はめ込む”治療
・小〜中くらいの虫歯が対象
・健康な歯を残しやすい
・削る量が少ない
インレー(部分的な詰め物)
・歯を全体的に覆う“帽子のような補綴物”
・大きな虫歯や神経を取った歯が対象
・大きく削って形を整える
・歯を守る強度は強い
つまり、どちらが優れているというものではなく、適応が違う のです。
患者様からすると「選択」だと思われますが、実際は 歯の状態によって“適応は決まっている” というのが正確な表現です。
2.なぜ歯科医師が決めるべきなのか?
①虫歯の範囲は“肉眼で見えない部分まで”広がる
虫歯は 表面より内部のほうが大きく広がる ことが多いため、 見た目では「小さそう」と思っても、実際に削ってみると インレーでは覆いきれない大きさ になっていることがあります。
そのため、歯科医師は
・レントゲン
・触診
・虫歯染色液
・象牙質の硬さ
・辺縁の状態
などを総合判断し、インレーで耐えられるか、クラウンで守るべきか を決めます。
②インレーにすると“割れる・欠ける”リスクがある
中〜大きな虫歯をインレーで治した場合、 次のトラブルが起きやすくなります。
・詰め物の下が虫歯になる
・歯の側面が割れる
・噛み合わせに耐えられない
・詰め物が外れる
特に 神経を取った歯 は脆くなるため、
インレーのように部分的に覆う治療は不適切です。
つまり、 “インレーでいけそうに見える” という患者さんの判断は危険です。
③クラウンにすべき歯をインレーにすると、寿命が急激に短くなる
クラウンは歯全体を覆うため、割れそうな歯を守る強度が高い のが長所です。
本来クラウンにすべき歯をインレーで済ませてしまうと、
・歯が割れた
・ヒビが入った
・根元まで割れて抜歯
という最悪のケースを招く可能性があります。
患者様が「費用を抑えたいからインレーで…」と判断してしまうと、 結果的に歯の寿命を縮めることにつながります。
④削る量が“適応”を決める
インレー:歯の一部だけ削る
クラウン:歯の周囲をぐるっと削って全体を覆う
この「削る量」は歯の強度に影響します。
強度が足りない歯にインレーを入れると、歯が耐えられず割れる → 抜歯という最悪の経過になることがあります。
そのため、歯科医師が歯質の量と強度を見て判断する必要がある のです。
3.患者様自身が判断してはいけない最大の理由
それは、
“削る量は少ないほうが良い”とは限らないから。
患者様は「なるべく小さく削ってほしい=インレーが良い」と思われがちですが、
実際は逆で、
・インレーで済ませようとして歯が割れる
・再治療を繰り返し、最終的に歯が弱る
・抜歯につながる
というケースが非常に多いです。
歯科医師は“その歯がこれから何十年持つか”を見越して判断します。
4.歯科医師が診断する基準
当院では次の項目を総合的に判断します。
【インレーの適応】
・虫歯が比較的浅い
・歯質が十分残っている
・噛む力が強くない部位
・クラック(ヒビ)がない
・神経が残っている
【クラウンの適応】
・虫歯が深く範囲が広い
・歯の壁が薄い
・神経を取っている
・歯が割れそうなリスクが高い
・過去に大きな修復をしている
・噛む力が強い部分
この診断は、レントゲン・口腔内写真・実際の削合時の状態 を見て初めて正確な判断ができます。
患者様側が見た目だけで判断するのは不可能です。
5.患者様が安心して任せるために
治療方針を説明する際は、 「なぜクラウンなのか?」「なぜインレーでいいのか?」
を丁寧にお伝えします。
・歯の強度
・虫歯の広がり
・再治療のリスク
・長期的に見た時の歯の寿命
・噛み合わせの力
などの根拠を説明し、患者様が理解したうえで治療を進めます。
6.まとめ:治療の選択は“歯の将来”を守るため
インレーとクラウンは、見た目の違いや“削る量の多い・少ない”という違いだけではありません。
インレーの適応を誤ると、歯が割れて抜歯になることもある
クラウンは歯を守るために必要な治療のことが多い
虫歯の大きさは外から見えないため歯科医師の判断が必須
患者様の希望や予算はもちろん大切です。
ですが、それ以上に大切なのは
その歯が10年後、20年後も残る選択かどうか。
最適な治療は、プロの診断があってこそ成り立ちます。
インレーかクラウンか迷われたときは、どうぞ安心して歯科医師に相談してください。
歯の寿命を最優先に、最も適切な治療をご提案いたします。
