虫歯治療で素材によって一回り大きく削る理由

虫歯治療では素材によって実は歯を削る量が違います。
なぜ“一回り大きく削る”のか科学的根拠と治療の本質を歯科医が解説

大阪府浪速区・くきデンタルオフィスの審美歯科医師の九鬼ゆりが詳しく解説します。
虫歯治療と聞くと、「虫歯の黒いところだけをピンポイントで削って、そこだけ埋めればいい」
そう思われる患者様はとても多いです。
しかし実際の歯科治療では、虫歯の部分“だけ”を削ることは不可能であり、治療した部分よりも 一回り大きく削る必要 があります。
今回は、その理由を医学的・構造的な観点からわかりやすく解説します。

1.虫歯は “黒い部分” だけではない

虫歯は「表面に見える穴」よりも 内部に大きく広がる 性質があります。
虫歯菌が象牙質の中で勢いよく増殖するため、表面は小さくても、内部は大きな空洞になっていることが多いのです。
さらに、虫歯の周りには一見すると硬そうに見えても、柔らかく感染した象牙質(軟化象牙質)が存在します。
この軟化象牙質を残せば、詰め物の下で再び虫歯が進行し、再治療(再発)に直結 します。
つまり、黒いところだけ=削るべき部分の一部でしかないということです。

2.インレーやクラウンは「精密な形」でなければハマらない

詰め物(インレー)や被せ物(クラウン)は、立体的に精密な形で作られた補綴物 です。
そのため、「虫歯の穴の形を、そのままの形で詰める」ということは不可能です。
理由は2つあります。

①辺縁を整えなければ適合しない
虫歯を削ったままの凹凸だらけの形では、ピタッとした適合が得られません。
境目に段差ができると、虫歯菌が入り込み、二次カリエス(再度の虫歯) につながります。
そのため、
削った場所に補綴物が“正確にハマる”ように、辺縁の形態を整える必要があり、結果として 一回り大きく削る形 になります。

②歯の中に“軟らかい部分”を残せない
軟化象牙質を残すと詰め物の接着が弱く、外れる・隙間ができる・虫歯が再発するといったリスクが高まります。
そのため、健康な組織まで境目を伸ばし、しっかりした土台 を作るために、結果として削る範囲が広くなります。

3.「必要以上に削っているわけではない」という事実

患者様からすると、「もっと小さく済ませられませんか?」と感じられることがあります。
しかし実際の臨床では、削る量を最小限に抑えつつ、再発のリスクを最大限減らすという判断のもと、最適な量が決まっています。
むしろ、

削る量を小さくしすぎる
→詰め物がうまくハマらない
→隙間ができて虫歯再発
→結果として「もっと大きく削る再治療」が必要に

となり、歯の寿命は短くなります。
歯科の治療は、短期的な“削る量”より、長期的な歯の寿命を守ることが優先されます。

4.削る量を最小限にするための工夫

当院では、必要最小限の削合で治療ができるように次の工夫を行います。

①削る量の少ない素材の選択
素材によって実は、削る量が異なります。
最小限に削るものはセラミックではなく金歯だったりします。
金属は割れないので厚みが薄くて済むため削る量も少ないです。

②MI(Minimal Intervention)治療の実践
「最小限の侵襲で最大の効果」を目指す治療哲学で、歯の寿命を長くすることが目的です。

5.まとめ:一回り大きく削るのは “歯を長く守るため”

虫歯治療で“一回り大きく削る”のは、不必要に削っているわけではなく、
科学的根拠に基づいた「歯の寿命を守るための処置」 です。

・虫歯は内部に大きく広がる
・軟化象牙質を残すと再発する
・補綴物は精密形態でないと適合しない
・必要最小限の削合を行うための技術がある

これらを踏まえ、最も大切なのは「治療後の長持ち」=歯の寿命です。